「アフターダーク」村上春樹

アフターダーク (講談社文庫)
何となく鬱屈したものを抱えた女の子が、都会で過ごした一晩のお話。
村上春樹を読むということは、良くも悪くも「すでにがっちり固まった村上春樹の世界」を期待しているのだなあと痛感してしまいました。
今作の舞台は東京。劇中には当然ながら携帯電話も出ますし、実在の店名や邦楽アーティスト名も出ます。口調、会話なども過去作品に比べて、現代風になっています。そのためか村上春樹が持つ独特の世界観は薄まっている感があり、あの世界観に浸りたい読者には物足りないかと。
村上春樹ががんばって(いや、がんばっていないのかもしれないけれど)、現代風に物語を描いても、たとえ舞台が東京の夜中のデニーズだったとしても、19歳の女の子が政治的に正しいチキンかどうか気にする段階でもはやファンタジーなので、あまり現代日本にはこだわらず、あの世界観の物語を描いていただきたい…。
とは思うものの、なんかミュージシャンに同じような曲ばかり期待する、年寄りファンみたいで良くないのかなーという気持ちもあり、複雑です。