「チップス先生さようなら」ジェイムズ・ヒルトン 菊池重三郎/訳

チップス先生さようなら (新潮文庫)

チップス先生さようなら (新潮文庫)

変わった構成の小説に興味がある。この「チップス先生さようなら」は、よぼよぼのチップス先生が、寄宿舎学校に転任してきた二十代前半からの六十数年間を、つらつら思い出すという展開。ひとの人生を描く場合、時間に沿って、若いころから…という構成が一般的だけど、この作品は逆だ。そしてタイトルからしてチップス先生が危なっかしい。「さようなら」だもの。お別れするのが大前提。
チップス先生は、客観的に見ればたいした先生ではない。冗談が面白いのを除けば、出世もしないし、教え方は古いままで保守派だし。でもチップス先生は、六十数年間の生徒の顔と名前をおぼえている。そして生徒が卒業して名士になったり、戦死したりするのを見守り続けている。
最後にはタイトルどおり、チップス先生とのお別れがある。みんな、チップス先生は寂しくて気の毒な老人だと思ってる。私も思ってた。でもそれは違ったのだと今際の際にわかるのだ。泣けます。