「羆嵐(くまあらし)」吉村昭

羆嵐 (新潮文庫)
1915年に北海道は苫前(とままえ)で発生したヒグマ事件について、以前こちらの日記で紹介しましたが、その事件を元にした小説です。古くて固そうな小説…というイメージがありましたが、淡々とした文章に妙な迫力があり、ぐいぐいと読まされました。ドキュメンタリー小説と紹介されてはいるものの、登場人物も実名ではなく、他の情報と違う部分もあり、脚色も多々あるようです。それでもやはり「実際にあった事件」ということで他の小説にない圧迫感を感じます。


物語はほぼ、苫前の区長の視点で進みます。そのためヒグマの襲撃シーンは現場の状況と、生存者の証言でしかありませんが、それでも人間を食料としか見ていないヒグマの所業は、人間の犯罪とはまた違った残酷さがあります。
後半は、大勢の人々がたった1頭のヒグマによって恐怖のどん底で翻弄される様子が描かれ、人間の弱さを痛感するに至ります。


ところで、苫前の郷土資料館には巨大ヒグマ「北海太郎」の剥製がありました(この事件のヒグマとは別)。
この事件がきっかけでマタギになった方と、その息子さんが仕留めたそうなのですが、この話を浪漫堂の店長にしたところ、店長が苫前に行った時に車に乗せてくれたおじいさんが「あれ、おれが仕留めた!」と言っていたそうで…しかしそのおじいさん、酔っていたので真偽のほどはわかりません…。こういう話が出てくるのが面白いですね。