「誰か somebody」宮部みゆき

誰か―Somebody (文春文庫)
一人の男性が、自転車との接触事故で死亡したが、犯人は見つからない。警察官でも探偵でもない、さえない一会社員で、逆玉の輿という立場をなんとなく享受してしまっているぼんやりした男性が、謎をといていくというミステリー。冒頭では自動車事故じゃないから…と軽く見られがちな事件のせつなさを感じながらも、調査を進めていくと、被害者にまつわる過去と、調査を依頼してきた被害者の娘にも秘密が。
そんな感じで事件自体はさほどセンセーショナルではないので、この規模の小ささを、「なーんだ」ととるか、「地に足がついている」ととるかは読者によるといったところでしょうか。読み進み、謎が明らかになるにしたがってやるせなさが残ります。作中のいろんな“やるせなさ”に、作者独特の視点を感じます。

余談ですが宮部みゆきの描写は最近古さを感じてしまいます。この本は2003年発行なのですが、主人公があまりにも落ち着いて諦観に満ちているので、50歳くらいの男性かなぁと思っていたら35歳でしたし、20代女性の描写もバブル期みたい(髪型が「マダムカット」や「ポニーテール」って)。地味で落ち着いた文章が魅力だとは思うのですが、反対に浮世離れを感じてしまいました。